まじめ道楽

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ピアノと音楽を学びたい人にオススメの12冊

ピアノを弾くことを仕事にしている方、ピアノに関わる音楽関係の仕事をしている方。「これからは演奏や芸術的な技能だけじゃなく、基礎知識を強化したい」と思っている方。またはこれから音楽について学びたい、教養を身につけたいと思っている方にオススメの12冊を紹介します!

これを読めば演奏技術が向上する、ノウハウが学べるといった本を紹介するわけではないことをご了承ください。

紹介した本が、音楽や演奏に付随する教養と経験、想像力の助けになれたなら幸いです。

それではさっそくいきましょう!

  1. 『ピアノの誕生』西原稔(ピアノの歴史)
  2. 西洋音楽史岡田暁生(音楽の歴史)
  3. 『音楽嗜好症』オリヴァー・サックス(音楽と脳の関係)
  4. 『響きの科学』ジョン・パウエル(音響物理学、音響心理学)
  5. 『永遠のピアノ』シュ・シャオメイ(ピアニスト自伝、歴史)
  6. 『芸術とは何か 千住博が答える147の質問』千住博(芸術論)
  7. ドラッカーとオーケストラの組織論』山岸淳子(音楽マネジメント)
  8. 『名曲誕生 時代が生んだクラシック音楽』小宮正安(歴史、音楽背景)
  9. 『さよならドビュッシー』中山七里(音楽ミステリー)
  10. のだめカンタービレ二ノ宮知子(音楽漫画)
  11. 『ピアノのムシ』荒川三喜夫(ピアノ調律師、ピアノ業界)
  12. 『パリ左岸のピアノ工房』T.E.カーハート(ノンフィクション)

 

『ピアノの誕生』 西原稔

ピアノの誕生・増補版 (青弓社ルネサンス)

ピアノの誕生・増補版 (青弓社ルネサンス)

 

内容:ピアノの歴史について。ピアノが生まれてから300年の時が経ちました。音楽の歴史の中では短いものですが、ピアノが辿った歴史がぎゅっと詰まった一冊です。ピアノはどのように発展し、人々の中に浸透していったのか。ヨーロッパと日本の歴史を追って書かれています。文化、社会、産業革命、大衆化、教育、趣向品としてなど、様々な経過を辿り、ピアノが今の私たちの生活にどんな距離感で存在するようになったかを知ることができます。

 

西洋音楽史岡田暁生

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

 

内容:音楽の歴史について。今私たちが耳にしている音楽は、西洋(ヨーロッパ)の音楽理論によって構成されたメロディや和音による音楽が、日本に取り入れられ、浸透しています。その音楽がどのようにして生まれたのか。バロック、古典、ロマンなどの音楽形態はどのように変化し、人々に浸透し、定義されるのか。音楽が生まれ変化した時代は、歴史の中でどんな位置にいたのかを、本書では論じています。西洋音楽史の本は数多く出版されていますが、岡田暁生さんの著書はとてもわかりやすく書かれていると思います。西洋音楽の歴史の大まかな流れが理解できる一冊となっています。

→合わせて読むと理解が深まる本。Step Up!

音楽と思想・芸術・社会を解く 音楽史 17の視座―古代ギリシャから小室哲哉まで

音楽と思想・芸術・社会を解く 音楽史 17の視座―古代ギリシャから小室哲哉まで

 
138億年の音楽史 (講談社現代新書)

138億年の音楽史 (講談社現代新書)

 

 

『音楽嗜好症』 オリバー・サックス

内容:音楽と脳の関係。脳神経科医のオリバー・サックス先生が、音楽と脳の関係について、患者から観察した不思議な症例を書き記した一冊。

スティーブン・ピンカーというアメリカの心理学者が言った「音楽は聴覚のチーズケーキである」という言葉があるそうです。音楽とはチーズケーキのような趣向品と同じで、人類から失われたとしてもその後の進化には影響しないだろうという意味の発言だそうです。では実際、私たちが耳で聴いた音楽は脳でどのように処理され、私たちの行動に繋がっているのでしょうか。

本書に登場する、脳に疾患を抱えた患者たちの音楽に対する反応から音楽の関わりが見えてきます。以前ドラマにもなった、「サヴァン」がわかりやすい例でしょうか。本書に登場する症例では、言葉がうまく話せなくても、歌の歌詞は暗唱できる。記憶がわずかしか持たなくても、バッハのピアノ曲を何曲も弾くことができるなどなど。ある能力の欠けた部分を、他の能力が秀でることで補おうとする。作曲家ラヴェルは、「ボレロ」を作曲した当時、それまでの作曲した構造と違い、単純なリズムとメロディを反復する認知症だったのではという話も。

音楽と人間の脳との関わりについて、面白い側面を発見できる一冊だと思います。

 

『響きの科学』ジョン・パウエル

響きの科学―名曲の秘密から絶対音感まで (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

響きの科学―名曲の秘密から絶対音感まで (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

内容:音の成り立ちについて。物理や心理学という難しそうなテーマになりましたが、本書は堅苦しくなく、ユーモアに溢れた語り口となっていてとても楽しく読めるはずです。音と雑音の違いは?ハーモニーってなに?短調は何故暗い響きなの?音と音楽についての素朴な疑問がわかりやすく解説されています。読み終える頃には、自然と物理学や心理学を通して、あらためて音楽の感動を再認識できると思います。音楽と科学(ひいては数学)はかけ離れたものではないんですね。

→気になったらこちらもぜひ。

絶対音感神話: 科学で解き明かすほんとうの姿 (DOJIN選書)

絶対音感神話: 科学で解き明かすほんとうの姿 (DOJIN選書)

 

 

『永遠のピアノ』シュ・シャオメイ

永遠のピアノ〜毛沢東の収容所からバッハの演奏家へ ある女性の壮絶な運命〜

永遠のピアノ〜毛沢東の収容所からバッハの演奏家へ ある女性の壮絶な運命〜

 

内容:文化大革命を経験したピアニストの自伝。中国の女性ピアニストが音楽学院に通っていた頃に文化大革命が起こり、音楽活動を中断せざるを得なくなる。しかし、ピアニストになる情熱を絶やさず、アメリカやパリに渡り、40歳にしてプロの演奏家になったシュ・シャオメイ。

文化大革命については文献も少なく、全容について明確な記録も残らないほど混沌とした出来事だったようです。まして芸術家がどのように生きたかを記したものなど、残るはずもない中で、このような本が書かれたことはとても価値があります。

正式には1966年5月に開始された文化大革命毛沢東共産主義を推し進める革命が民衆を扇動しました。資本主義を進める西洋の考えは危険で、その文化(音楽や文学など)を行うことも所持することも同様に罪であるとし、絵画、書物、バッハ、ベートーベンなどの作曲家のたくさんの楽譜やレコードが燃やされ破壊されました。芸術の職につく人も大勢収容所に送られました。この革命での死者は数百万から数千万人とされ、正確な人数はわかっていないそうです。

すぐ隣の国で、半世紀前にこのような出来事があったことがとても恐ろしいと思いました。このような悲惨な状況でも、音楽を辞めなかった。むしろ過酷な状況でこそ音楽や芸術が力を発揮するのだと感じました。当時のシュ・シャオメイを支えていたのは音楽、ピアノと文学でした。もちろんそれらは、ブルジョワ文学として批判されていましたが。ここに挙げると、トルストイ(アンナ・カレーニナ)、チェーホフドストエフスキープーシキンロマン・ロラン(ジャン・クリストフ)、バルザックフロベール、ゾラ、マリー・キュリー老子荘子ロダン(芸術論)、ヴィクトル・ユゴーハンナ・アーレントなどなど。

毛沢東は芸術、特に音楽が人にもたらす力の強大さを知っていたのだという。それ故に危険視していたのだそうです。余談ですが、もう二度と同じことが起こらないよう、文化大革命の教訓から考えて、学ばなければいけないですね。

J.S.バッハ: ゴルトベルク変奏曲BWV988 (Jean-Sebastien Bach: Variations Goldberg / Zhu Xiao-Mei, Piano) [輸入盤・日本語解説書付]

J.S.バッハ: ゴルトベルク変奏曲BWV988 (Jean-Sebastien Bach: Variations Goldberg / Zhu Xiao-Mei, Piano) [輸入盤・日本語解説書付]

 

 

『芸術とは何か』千住博

内容:芸術について。著者の千住さんは美術や絵画専門の方ですが、芸術について寄せられた質問に答える形式の本書で答えられたことは、音楽にも通じる部分があると思います。

「芸術家は時代と共に生きるのですか?時代から超越しているのですか?」「芸術家にも市民感覚、市民的常識は必要ですか?」「芸術に無関心、無関係な人生は無意味ですか?」などなど、きわどい質問もいくつかあり、それらに端的に答えてらっしゃいました。読んでいて面白かったです。

→こちらもおすすめ!

音楽の感動を科学する ヒトはなぜ“ホモ・カントゥス

音楽の感動を科学する ヒトはなぜ“ホモ・カントゥス"になったのか (DOJIN選書35)

 
世界の歴史〈12〉ルネサンス (河出文庫)

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ドラッカーとオーケストラの組織論』山岸淳子

ドラッカーとオーケストラの組織論 (PHP新書)

ドラッカーとオーケストラの組織論 (PHP新書)

 

内容:組織としてのオーケストラマネジメントについて。『マネジメント』の著者ドラッカーは『マネジメント』の中で、「経営管理者はオーケストラの指揮者である」と例えたそうです。そこからヒントを得て書かれた本書。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』のオーケストラ版でしょうか。音楽の顧客は誰か。オーケストラの価値を信じているかなどなど、音楽をビジネスにしていく方には、この本が役に立つのではないでしょうか(私はあまり詳しくなくてすみません…)。

→こちらももちろんおすすめ。

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

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ピアノ 技術革新とマーケティング戦略

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『名曲誕生』小宮正安

名曲誕生―時代が生んだクラシック音楽

名曲誕生―時代が生んだクラシック音楽

 

内容:クラシック音楽の名曲の歴史背景について。クラシック音楽の名曲はいかにして名曲になったのか。メロディが美しい、構成が素晴らしいだけでなく、歴史や時代を映し出す鏡として長く人に聴かれ続けた曲が、名曲となり得たとして、丁寧に解説されています。

 

『さよならドビュッシー』中山七里

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

 

内容:映画化されましたが、これは原作の小説をおすすめします。ジャンルや作風は音楽ミステリーなのですが、主人公の周りにいる人、ピアノの先生や医者、祖父が語る精神論。コンクールを目指す練習風景やピアニストとしての姿勢はまるでスポ根を見ているかのように熱いです。「二本の足で立って前を見ろ。自分の不幸や周りの環境を失敗の言い訳にしたらあかん」、「ベートーヴェンは難聴の作曲家だから偉人になったわけではない」などなど。理屈で励まされ、背中を押される言葉が多かったように思います。

合わせておすすめ!

ルーシー変奏曲 (SUPER!YA)

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のだめカンタービレ二ノ宮知子

のだめカンタービレ(1) (Kissコミックス)

のだめカンタービレ(1) (Kissコミックス)

 

内容:言わずと知れた音楽漫画ですね。これはアニメとドラマもありますので、どんな曲が演奏されているのかを実際に聴いて楽しむこともできます。主人公の音大の四年間と、フランスに渡りピアニストとしての演奏活動を描いていて、その周りにいる愉快なキャラクターたちが音楽に奮闘しながら日々を送っていきます。音楽人生だけじゃなく、その日常生活も色鮮やかに描いていて、人生の中で音楽の道を選んで続けていくことや、選択の岐路を前に、音楽がどのように寄り添って影響を与えているかが丁寧に書かれています。あの時、あのキャラクターが悩んでいた時はこんな曲を練習していたなとか、華々しい瞬間を迎えた時にはあの曲が演奏されていたなとか。クラシック曲の背景とキャラクターの心境や環境がマッチしていて、音楽が心を語るようなシーンが多くとても印象的です。「ぎゃぼー!」と叫ぶ主人公のモデルは、作者の周りに現実にいた女性をモデルにしたそうですね笑 音大には個性的な人ばかりいるわけではないことを重ねて断言したいですが(擁護)、群から際立って目立つ人もいるので、空気だけでも楽しんでいただけると思います。

 

『ピアノのムシ』荒川三喜夫

ピアノのムシ 1 (芳文社コミックス)

ピアノのムシ 1 (芳文社コミックス)

 

内容:ピアノ調律師とピアノ業界の現状。ピアノの音の調子を整えてたり、内部の機構の動きを直したり、壊れた箇所を修理したり。ピアノの裏方として働くピアノ調律師とはどんな仕事なんだろうかという興味を持った方はおススメです。この漫画の魅力は、ピアノ調律師の業界、または関連するピアノ業界の現状と真正面から向き合い、そこに居座る数々の問題を、口が悪いが腕利きの調律師が改善するというお話。中にはすっかり解決に向かわない話もあります。同業者の方なら共感できるテーマや問題がこの多く登場します。多少誇張もあるでしょうが、無視できない事柄ばかりだと思います。

調律師と詐欺師は紙一重だ。

友人はこの言葉を読んで「この作者は調律師が嫌いなのか?」と非難してましたが、言い得て妙だと私は思いました。

ピアノという楽器は、演奏者自身がメンテナンスやチューニングをしない楽器です。ピアノの内部には何千個もの部品が組み付けられていて、その一つ一つがミリ単位で調整されています。木材、フェルト、鉄など複数の素材が混合し、その調整や調律には技術が必要です。それがピアノ調律師という職業として成り立っているほど、演奏技術の向上と楽器調整の技術を同時に身につけていける代物ではないのですね。つまり、ピアニストでもピアノの中身に詳しい人はあまり多くないという事実です。その無知に漬け込んで、調律師側から、今のピアノはここが問題で最低限ここは直したほうがいいとアドバイスをされても理解が及ばないことがあります。技術を提供する側と受ける側双方に差異があるまま、そこに使われる技術にどれだけの価値を払うべきか相互の理解に繋がっていないのです。ともすると詐欺行為になりかねない状態ですね。

なかなか深刻なテーマにも思えますが、漫画はそんな状況を痛快に切り抜けていくのでとても面白いです。同じく調律師を主人公にした『羊と鋼の森』とは切り口が違いますのでお気をつけください笑 興味がある方はぜひ!

 

『パリ左岸のピアノ工房』T・E・カーハート

パリ左岸のピアノ工房 (新潮クレスト・ブックス)

パリ左岸のピアノ工房 (新潮クレスト・ブックス)

 

内容:ピアノを見つめる目。フランスの裏通りにある小さな店構えのピアノ修理屋。店内にはピアノの部品や修理工具が並んでいるが、狭い店の奥にはアトリエがあり、さまざまな年代の、さまざまなメーカーのピアノが何十台も並んでいます。スタインウェイヤマハ、エラール、ベヒシュタイン、ベーゼンドルファー、ファツィオリ……。修理中であったり、修理後に音を復活させたピアノも並んでいます。その工房を営んでいるピアノ職人リュックは、ピアノ一台一台の個性を知り、またその声を聞く。ピアノの声を聞くというのは比喩ではなく、本当にそのピアノの持つ素材としての音を聞いて、愛している。

資本主義の世の中、会社としてピアノを作り、売れるためには「利益」や「効率」が優先される現代で、この工房は時流に流されず、世界の片隅でゆったりとした時間を保ち続けています。ピアノに使われた木材がどこからやってきたのか、このピアノはどんな生涯を歩んできたのかを我が子の思い出を語るように話をするリュック。その心と言葉がとても美しい。

このような姿勢でピアノに向き合うことはとても難しいです。日本では絶対にありえない。望んでも手に入らない精神と姿勢があります。失ってしまった職人の息づかいが残されている場所。現代の中では「淀み」のような空間であり、それがいかに尊いものであるかは、立ち止まらないとわかりません。この本にはそんなリュックの、ひっそりと輝く光のような言葉が美しく紡がれています。フランス、パリのどこかにある工房が、ピアノの声を聞き、音楽のために作られ生まれたピアノの個性が子供のように愛され理解されて、いきいきと鳴り響き続けますように。珠玉の一冊です。

 

 

おわりに。

興味のある本はありましたでしょうか。紹介した12冊が、音楽への理解を一つでも近づけ、音楽生活の役に立てたなら幸いです。ピアノの歴史は300年。西洋音楽の歴史は500年。西洋音楽の理論が生まれたのは紀元前500年頃から。そしてその理論の元になったのは、人が生まれるはるか昔、138億年前に誕生した宇宙だというのですから規模が大きすぎますね…。

本を読み重ねていくと、宇宙と音楽を繋ぐものは数学にあり、数の調和が音楽のハーモニーを作り上げていると考えられていることがわかるかと思います。音楽の感動は聴いた時に感じるものだけでなく、数という変わらない秩序の上にも成り立っているのです。数学の勉強は退屈で難しく感じる方もいらっしゃると思います。私もその一人です。 しかし、音楽の美しさは数学によって構築されていると知っても音楽の感動が薄れてしまうことはないのではないかと思います。

話が戻りますが、歴史が進み続ける先端、今を生きている私たちは過去から学ぶしかないわけですね。私もまだ半世紀も生きてませんし、100年経たずに死んでしまうことは確実ですから。1人の生涯は微々たるものです。なので、先人の方々が研究してくれたさまざまな分野の知識を学び、その言葉を読むことができるのは、残してくれた本があるから。そんな過去から繋がりを絶やさずに、伸びてきた道の上に私たちはいるんだなぁと実感し、また私たちがその道を先の世代に繋いでいけたらいいですね。

音楽に迫る本をきっかけに、人生が芸術に溢れ、日々を彩りますように。では、また!

 

 

より興味が沸いた方へオススメの本。

音楽と数学の交差

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ピアノの音響学 (音響サイエンスシリーズ)

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ピアノ・ノート

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