まじめ道楽

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響け!ユーフォニアムの一話

武田綾乃さんの小説シリーズ『響け!ユーフォニアム』を、京都アニメーションがアニメ化した一期と二期を観たので、簡単に思ったことを書こうと思います。本編内容に触れていますので、未視聴の方はお気をつけください。

 

冒頭から心に槍を刺された。

主人公、黄前久美子の回想シーンから始まる。中学生の吹奏楽コンクール結果発表の場面。久美子は中学3年生。演奏の評価は金、銀、銅というランクがつけられる。金賞を獲った学校が全国に駒を進めることができるが、全国大会に出場できる数には決められた枠がある。その枠にあふれてしまって全国大会に出場できないけれども、評価としては金賞を獲ったことを「ダメ金」と呼ぶ。いわゆる予選落ちだ。

結果、久美子の学校の吹奏楽部の演奏評価はダメ金になってしまった。大会に臨む多くの演奏者達は、コンクールの結果を祈るように待ち、歓喜や悔し涙の声を上げ、コンクール会場いっぱいに勝者の輝きと敗者の墜落の姿を残していく。しかし、久美子はそのどちらでもなく、大きな動揺も歓喜もなく、ただ平穏に金賞を噛みしめるように静かに喜んでいた。その隣で悔し涙をぼろぼろ流している、トランペット担当の高坂麗奈。久美子は麗奈に声をかける。

「高坂さん、泣くほど嬉しかったんだ。良かったね、金賞で」

「くやしい…悔しくって死にそう。なんでみんなダメ金なんかで喜べるの…。私ら全国目指してたんじゃないの」

…本気で全国行けると思ってたの?」

久美子は思わずハッとした。これが久美子の癖だった。心の隅で思っていたことがふいにぽろっと口に出てしまう。それを聞いた高坂は泣き塞いでいた顔を上げて久美子の顔を見る。

「あんたは悔しくないわけ?あたしは悔しい。めちゃくちゃ悔しい」

高坂はそう言い放ち、会場から出て行った。

 

久美子の一言は、とても繊細な部分をなんの前触れもなく傷をえぐるようで衝撃的だった。集団で一つの目標に向かう部活動。同じ時間を過ごして、同じ曲を演奏するチームワークの集大成とも言える吹奏楽。その集団行動の中にいても、個人の持つ目標や意識は統一できず、バラバラに入り混じった集団を築いているものもある。私自身、吹奏楽部に入ったことはないけれど、友人を見ていて、集団に属して関係を築いていく大変さを話には聞いていた。多人数の人付き合いが苦手な私にとっては話に聞くだけでもその苦労を想像できた。

久美子の一言は吹奏楽に限ったことではない。同じ道を歩いていても、足並みが揃わないすれ違いはある。久美子と高坂には、それがコンクールでの結果に対するすれ違いになって現れた。久美子にとっては、あの一言が紛れもない本心だった。「本気で全国に行けるわけがない」と思っている久美子のすぐ隣に、「本気で全国に行きたかった」高坂という遥かな距離が空いた存在がいた。その高坂に一番届かせてはいけない言葉を放り投げた。そして高坂からは、久美子が心のどこかで思っていた気持ちを引っ張り出したのだと思う。

「あんたは悔しくないわけ?あたしはめちゃくちゃ悔しい」

悔しいと思うほど努力したことがあっただろうか。本当は悔しい気持ちがあったんじゃないか。久美子と高坂は高校でも吹奏楽部に入り、よきパートナーになる。『響けユーフォニアム!』は、久美子が周りの人に引っ張られながら、また周りの人に必要とされながら、成長を描いたアニメだった。

 

スピンオフ的な『リズと青い鳥』も素晴らしかったですし、新作の劇場版も公開予定です。楽しみです。