まじめ道楽

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Music S.T.A.R.T!! OVAについて~西木野真姫が見る夢とlove live~

ラブライブのμ's。μ'sの西木野真姫さんについて考えている日々です。まだラブライブそのものが好きとは胸を張って言えないのですけど(μ'sは好きです)、アニメ一期を観てSchool idol diary(以下SID)を読み、楽曲を聴きました。μ'sが作り上げた9人のグループの形に魅力を感じつつ、素直になれないがμ'sへの愛情を持っていて、一言にツンデレとは当てはめられない性格の西木野真姫というキャラクターのことを主に考えることで、ラブライブに向き合っています。
まだ全体を掴みきれていませんし、西木野真姫さんから見えてくるものを受け取る視野しかありません。アニメと小説、楽曲から伝わってくるものに何故か惹かれる部分が多かったのが西木野真姫でした。今回は、その視野と興味を持ったまま、西木野真姫さんが第5回の総選挙で一位に選ばれてセンターを務めたμ'sの6枚目のシングル『Music S.T.A.R.T!!』のBlu-ray付き通常盤に収録されているOVAを観た感想と、個人的な解釈を書きます。
まだ曖昧な夢心地でいますが、清々しい満足感を味わったからなのか、書き残したいと思ったところです。

西木野真姫さんにとっての夢と現実。

OVAによって、西木野真姫さんが抱える性格、音楽やピアノから続くアイドル活動の道への気持ち、今度の展望。すべてが夢と現実を行き来し、その境界を曖昧にすることによって不可思議なストーリー展開を見せたOVAでしたが、あえて曖昧に描くことによって西木野真姫さんという人が歩んできた人生を包括、凝縮し、ゆるやかな実在感と絶妙な爽快感を放って夢と現実を同居させ、アニメ一期とSIDすべてをまとめて成就させたOVAだと感じました。とても清々しい気持ちでいます。
私個人が観て感じた解釈や考察です。ぜひいろんな方の感想や解釈も聞いてみたいです。

このOVAによって汲み取った概要。
「終わらないパーティ」から見えてくるものはなんなのか。
終わらないパーティ=音楽を歌い続けるアイドル活動。大好きな音楽を奏で続けることを夢見ていた子供の頃の真姫さんの成就。成仏。
μ'sのことが大好きという気持ちの自覚によって、素直になれず好きなものを抑えてきた半生と自分が生きてきた道をも愛するような結実を示す『Love Live』という一つの解への到達を見せてくれた『Music S.T.A.R.T!!』。
そしてこの曲と相反しつつも、真姫さんが抱える矛盾した内面を抱きとめてくれるような『LOVELESS WORLD』の曲にも衝撃を受けました。以上の点を、アニメ一期、SID含めて話していきたいと思います。

このような形で、真姫さんが子供の頃に抱いていた気持ちが今も地続きであると同時に、一つ、真姫さんの中で成就を果たした光景を、幻想的で夢のような現象として見ることができて、私はとても嬉しかったです。
当時、センターを決める5回目の総選挙によって1位に選ばれた真姫さん。投票してくださった方々と、その結果を受けての新曲『Music S.T.A.R.T!!』とOVAを生み出してくださった運営の方々には、本当に感謝します。ありがとうございます。





OVA本編、SIDのネタバレをしていますので注意です※





冒頭

夢はその人の深層心理を当人に見せます。過去を振り返り、未来を予知することもあります。冒頭のシーンは、誰が見ても疑いようのない夢です。
上手から下手(過去)へ、何かから追われるように走って逃げる真姫さん。真姫さんが後方を見ると、逃げているのは光だとわかります。影や闇から逃げているわけではありません。ここでの光は医者の道か、好きな音楽か。医者になる道と好きな音楽を将来という天秤にかけた時、音楽は夢になり得ない真姫さんの境遇から、好きなものが自身から引き裂かれ、自分を追い詰め責めるものの象徴として、真姫さんは光に追われているのではないかと思います。
たどり着いた聖堂。神のために音楽を奏でる象徴=(個人的な)感情を寄せず、感情を想起させない音楽→結果を求められるだけの音楽(ピアノ)という、
真姫さんが子供の頃に経験した習い事として音楽及びピアノに触れてきた経緯を象徴したもののように思います。それと同時に、真姫さんは子供の頃から世界で一番ピアノが好きで、音楽も好きで、ドラマチックな情動の気薄な練習曲(バイエルやブルグミュラー)でさえも、天上の音楽に聴こえる*1ほどの感動を得ているので、真姫さんにとっては聖堂で奏でられる宗教音楽でさえも、心が満たされるような大好きな音楽に含まれるだろうと思います。なので、この場面で真姫さんがたどり着く聖堂は、権威としての絶対的な音楽と、子供の頃に結果を求められる音楽と、大好きな音楽という真姫さんが身を置いてきた音楽環境や音楽観が夢によって象徴された場所にも思えます。

檻に閉じ込められ、フードを被って迫ってくるのはおそらく8人(真姫さんを除いたμ'sメンバーの数)。今でこそμ'sは真姫さんが音楽を続けられる居場所になりましたが、加入する前の真姫さんにとっては、一度真姫さんの中で終わらせた音楽に向き合わなければいけない障害となります。もう一度音楽を始めるということは真姫さんにとってどんな心境と決意で臨むべきかという心情が整っていないと、真姫さんが再び音楽に向けて再起することはできないからです。その切迫感や選択を迫られる恐怖が夢の中で象徴化されたのだと思います。
近寄ってくる8人によって高まる恐怖の末に、
「誰か助けてー!」
と、叫ぶ花陽ちゃんによって教室内に場面が切り替わり、真姫さんが見た夢の話だったということがわかります。そして真姫さんが見た夢は、真姫さんが過去に経験した何かの心象風景を形にした夢だったことが想像できます。
そして真姫さんは、

「もし、今も夢の中だったらどうする?」

と問いかけます。
この瞬間、教室内で花陽ちゃんと会話しているこの現実すらも夢である可能性を示唆することで、現実感が曖昧になります。しかし、これは単なるミスリードかもしれませんし、今が現実であることに変わりはないのかもしれません(私はこの場面は現実だと思っています)。
ただ、この「曖昧さ」を初めに盛り込んでくることで、のちの展開に違和感なく自然な現象として捉えることができる準備を整えた効果的な台詞でした。


「夢」という言葉が指す対象は二つあります。寝て見る夢と、目標としての夢。教室の場面で真姫さんが問いかけた「夢」とは、寝て見る夢ではなく、目標としての夢を指していると思います。それは真姫さんがμ'sとして好きな音楽を楽しんでいる未来の夢。この問いには、その夢が今現実になっているという点で「夢ではあったけれどもう現実になっている」という同時性を抱えることができます。つまり、花陽ちゃん他にとってあのシーンは現実世界なのだけれど、真姫さんにとっては目標としての夢も、その夢が叶った現実も同時に生きている今なのです。それは言い換えると、夢の中にいると言うこともできます。なので、真姫さんが問いかけた「もし今も夢の中だったらどうする?」という言葉は、真姫さんにとってはなんら的外れでもおかしな問いでもありません。「もし」という仮定でない可能性も十分に考えられます。
では、今まさに夢と見まごう現実感と共に叶えられた夢の中にいる真姫さんはこれからの未来とどう向き合っていくのでしょうか?


窓を開けて吹き込む風を受ける真姫さん。この構図は2話で真姫さんが『START:DASH!!』の曲を提供した後、一人風を受けて佇む場面と同じ横顔を映しています。真姫さんにとって2話のあのシーンは作曲を始めることで音楽ともう一度向き合うきっかけとなる瞬間であり、OVAにおけるこの場面はその回想を浮かべたことでしょう。
そして真姫さんは言います。

「さっき話した夢、たしかに怖かったけど、ちょっと楽しかったかも」

あの夢が真姫さんの過去であるなら、それは音楽とピアノが純粋に大好きで、きっとその気持ちを素直に表すことのできた子供の頃の真姫ちゃん(子供時代の真姫、以下真姫ちゃん)です。父親に「なんで一番じゃないんだ!」*2とピアノのコンクールで結果を求められる前の真姫ちゃん。その頃の自分自身の心境を思って、真姫さんはあの夢を「怖いけど楽しい」と言えたのだと思います。

夢の中へ

LoveLiveのタイトルロゴが映され、場面は音楽室に移ります。一人ピアノを弾こうとする真姫さんですが、ピアノの鍵盤を押しても音が出ません。ピアノの中を覗き込むと、視界の中に一人の子供をとらえ驚きます。その子供は自分の幼い頃の姿だと気づき、空は雲に覆われ雷鳴が響きます。ここまでで起きた不可思議な現象から、このシーンは夢だと思われます。
次の日、真姫さんを除いたμ'sのメンバーがいつものように屋上で練習しようとするのですか、真姫さんは体調を崩して休んでいるという認識になっているようです。その屋上で、フェンスに腰掛ける幼い真姫ちゃんの後ろ姿。この時点で真姫さんと真姫ちゃんは入れ替わっていたのでしょう。

絵里さんが教室に忘れ物をして取りに戻るシーン。誰もいない校内で真姫ちゃんが自由に、軽やかな足取りで絵里さんを戯れに誘います。辺りが暗くなり、カラフルな照明が校内を満たし、光に満ちた出口が遠くに見え始めます。絵里はその光とまきちゃんの後ろ姿に導かれるように外へ出ると、外もすっかり夜になっていました。絵里さんを待っていた他のμ'sのメンバーにも同様の現象が起き、いつのまにか夜になったことに慌てています。
希さんが、
「夢見てるんとちゃう?」
という気づきに、
「そうだよ」
と、子供の真姫ちゃんが返答しμ'sの前に現れて初対面します。ここでの「そうだよ」はただの相槌ではなく希さんが問う「夢」であるかどうかの返答。
続けて穂乃果が真姫ちゃんに質問をします。
「本当にここは夢の中?」
真姫ちゃんは答えます。


「うん。終わらないパーティーのね」

終わらないパーティーに閉じ込めたもの

真姫ちゃんが目を閉じると、校舎の奥から夜空に花火が上がります。まるでこの世界の中を思い通りに操っているかのようですし、それはこの夢が真姫さんの見ている夢であることに他なりません。
そして真姫ちゃんの意味深な台詞が続きます。
「おねぇちゃんのこと、ずっと前から知ってるよ。9人になる前のバラバラだった頃から」
アニメ本編でも、真姫さんは1話から穂乃果ちゃんに見つけられ作曲担当として勧誘されたり、2話で曲を提供して以降、少しずつメンバーが集まっていく様子を見ている一人でもあります。子供の真姫ちゃんが音楽を続けていく延長上の未来に夢を見ていたのだとすると、そういう描写はありませんがアイドルをしている未来を想像してこんなメンバーがいたらいいなぁと夢を見ていたかもしれません。また、もし花陽ちゃんが言うように、ここが時間が戻った夢の世界なら、真姫さんが記憶を残したままで未来から逆算される運命であるかのように「前から知っている」という時間を超えた神の視点で語るような台詞を言うこともできそうですが、元に戻った真姫さんの様子から真姫ちゃんでいたことは覚えていないようです。
では、「前から知っている」という確信の裏付けはどこにあるのか。それは次に続く台詞にあるのではと思います。
ことりちゃんが問う
「どうして?」
という言葉の後、
「だってわたし、ずっと、ずっと……」
と、真姫ちゃんは繰り返し自分に言い聞かせるように、躊躇っているようでもありながら、これから打ち明ける気持ちが自分の中にあることを確かめるように囁きます。
そして、「ずっと」の後に続く言葉を言わぬまま真姫ちゃんは光に包まれて、今の真姫さんの姿に戻ります。
この瞬間に、子供の頃の真姫ちゃんは役目を終えます。音楽を終わらせることで大好きな音楽とピアノを続ける延長上に見えていた未来と夢を子供時代に閉じ込めた真姫さんに、音楽とピアノが大好きな気持ちを思い出させ、その気持ちとμ'sのことが大好きという気持ちを結びつけました。
子供の頃の真姫さんは、親にすすめられて習い始めたピアノを好きになり、音楽を好きになりました。ピアノが上手くなればパパやママに喜んでもらえることも意欲に繋がっていました。真姫さんが小学一年生の頃、ピアノの発表会で学年が上の子を差し置いて2位という結果を残して、それを親に伝えて喜んでもらえることを期待していたのですが、父から帰ってきた言葉は、
「なんだ、一位じゃないのか!」
という、真姫ちゃんにとって悲痛な言葉でした。この瞬間に、真姫ちゃんは親が求めているのはピアノを弾く真姫ちゃんではなく、西木野家に相応しい結果を出す子を求めていたことを子供心に実感します。そして、自分はピアノが好き、音楽が好き、ピアニストになるという気持ちや本音を覆い隠し、将来は「おいしゃさんになりたい」と卒園アルバムに書くほどでした。

私は音楽がすごく好きなんだって気がつくまでには、そう時間はかからなかったわ。でも、同時にそれがーーその私の大好きな音楽が、自分の一生の夢には絶対なってはくれないっていうことにも。
『School idol diary 西木野真姫』 本文より

これらのことから、真姫ちゃんがいた夢の世界「終わらないパーティー」は、一度終わらせた音楽への気持ちから完全に切り離された、音楽が大好きという気持ちでいられた子供時代で時を止めて閉じ込めたのだと思っています。そしてその子供時代には、気持ちを素直に表せるであろう幼い真姫ちゃんがずっと居続けていました。その過去の真姫ちゃんが夢に現れ、未来で音楽を続ける居場所となっているμ'sのメンバーの前で気持ちを素直に表明しようとしたことが今の真姫さんの報いとなって幼い真姫ちゃんの思いが成就し、まるで成仏するようにその姿を消し、今の真姫さんに変わった瞬間に、なんとも言えない感動を覚えました。


穂乃果ちゃんに問い詰められ、「ずっと」に続く言葉を求められる真姫さんは恥ずかしがって視線を逸らします。この時真姫さんは自分の中にたしかに宿っている本音を思って、最後まで口にすることはありませんでした。しかし、その内面に現れるようにもう一度子供の真姫ちゃんが映され、「みんな(μ's)のことがずーっと好きだったの」という今の真姫さんの気持ちを代弁して「終わらないパーティー」の始まりへと誘います。

そして始まる『Music S.T.A.R.T!!』のMV。
音楽が奏でられる限り、メロディに合わせて歌い、リズムに合わせて踊るアイドルの活動は永遠であり続けます。
『なんで今まで素直になれずにいたの?』という歌詞を凛ちゃんが歌うことも、キャラ自身への問いかけとしてとても良かったです。
「もっと知りたい?私の想いを知りたい?』という歌詞も、OVAで自分の中で蓋をしていた気持ちをあらためて知る過程に寄り添うものです。
子供の頃の気持ちを払拭するような気づきに至り、夢の中ではありましたがある種の成就が果たされたことで、真姫さんが生きている人生の中で素直に好きという気持ちを示す愛の表明を見ました。そうして迎えた曲の中で、この作品名であるラブライブ(love live)がこの曲で初めて歌詞に盛り込まれて歌われたことで、「生きることを愛する」という一つの解釈が与えられたように思いました。
真姫さんに注目して感じられた文脈ですが、ユニットとしてリリースされたシングルとしてこれがμ's全体を象徴する概念であるなら、この先に観る2期や劇場版にも通じるものがあるのではないかなと思っています。

相反する矛盾を持つ人

もう一つ、衝撃を与えられた曲がカップリング曲として収録されています。

LOVELESS WORLD』

ここまで真姫さんが素直に愛の表明に至る過程を紡いできたにもかかわらず、そのカップリング曲に持ってきた「愛のない世界」……これは一体どういうことかと頭を抱えてしまいました……。曲調も激しいメタルでしたし……。一枚のCDの中でここまで真逆な二曲が収録されて大きな矛盾を孕むすごい一枚だと思いました……。
しかし、この相反する矛盾こそOVA以前に真姫さんが抱えていた内面を見事に表現したものであり、OVAを観た後だからこそこの曲しかなかったとより思わされる歌詞でした。

μ'sに加わる前も加入時もそうですが、真姫さんは自分が好きでやりたいことと、医者という親の跡を継ぐという将来の二つを天秤にかけながら、自分はどちらを選ぶのか。どう振舞うべきなのかという矛盾を抱えていました。それはアニメ本編でもうかがえるように、穂乃果ちゃんが初めて真姫さんに出会った時はポピュラー(アイドル)曲を弾き語る真姫さんの歌を聴いたことがきっかけでした。しかし真姫さん本人はクラシックやジャズをよく聴いていて、こういう(アイドル)曲は軽くて遊んでいるみたいな音楽だと形容して、まるで興味を示していないように言い放ちます。この時点で行動と言動に矛盾があります。アイドル曲を弾き語っていたことの照れ隠しもあったでしょうが、無意識にそう言ってしまうようにそれほどまで真姫さんの中では、環境と自分の意思とで渦巻いて相反し、矛盾した気持ちを一緒に抱えていたのだと思います。だからこそ、μ'sに入ったことでその絡まった悩みの糸が解けるように、解消されていく姿に真姫さんの魅力と愛おしさがあると感じています。

そんな真姫さんが抱える相反した感情を歌い上げた『LOVELESS WORLD』。

灰になる運命を選びたいの 本当は
忘れてよ 忘れないで どちらも私なの
幸せ願ってると言いながら闇へ
LOVELESS WORLD

結ばれぬ運命に引き裂かれる思い出
見つめてよ 見つめないで どちらも私なの
さよならのkissして
幸せを願う(愛してると)
私は独りで(愛してると)
悲しみの国へ
LOVELESS WORLD
LOVELESS WORLD』歌詞

「忘れてよ 忘れないで 」
というフレーズは、まるで子供の頃の真姫ちゃんと今の真姫さんが問答するように聞こえ、どちらがどちらに問い、答えているのかを思うと胸打たれるものがありますし、そのどちらも私なの、と健気に抱きしめるような感情にもどかしくなります。

同じ時を生きて
同じ夢を語り合う
願いは叶わぬまま 孤独の中へ帰るわ
LOVELESS WORLD』歌詞

子供の真姫ちゃんが夢に見たものは叶わず時間と共に封じ込められて、真姫さんが夢で見たあの暗い聖堂の中に一人帰っていったと想像することもできます。曲の始まりと終わりに扉が閉じられるSEが挿入されることもその表現なのではと思えます。
ただ、この曲はどこまでも沈み閉じていく気持ちをささやかに守る歌だけではないと思っていて。その歌詞がCメロにあります。

消えない消えないこの炎
私の中燃える 今も(消せないから)
ここで抱きしめたい
みんなみんな忘れたい(愛なの)
LOVELESS WORLD』歌詞

消えない炎は真姫さんの中にある音楽とピアノを好きな気持ち。その炎は消せない。そして忘れたいと歌っていますが、それすらも「愛なの」と歌っています。真姫さんがピアノと音楽を好きになったのは、紛れもなく親がくれたきっかけです。親が意図する目的は違いましたが、真姫さんはそれでも好きになりました。そして、父から「どうして一番ではないのか」と迫られた時、自分の好きなことだからやりたいの、と主張することも反抗することもできませんでした。親が与えてきたものを無視できなかったのだと思います。音楽を終える一言を浴びせたのも親で、音楽を始めるきっかけを与えたのも紛れもない親なのです。それは完全に否定することのできない、抱きかかえるしかない事実として真姫さんに付きまといます。それは消したくても消せない、忘れたくても忘れられない愛というわけです。

これはSID本文で真姫さんのモノローグで書かれていますが、もしピアノを続けていて、医者ではなくピアニストとしての道を進んでいたら、きっと真姫さんはμ'sとは出会えなかったはずです。音ノ木坂学院にも入学しなかったでしょう。父の跡を継ぐため、秋葉原という地域に根差すために医者の道を進む決意をしたことで、一度音楽を終わらせたからこそμ'sと出会い、あらためて音楽が好きと歌えることができた。親にμ'sの活動がバレてμ'sを辞めようと決めた話で、自分の本音の気持ちを思い切ってまっすぐぶつけることの大事さに気づきます。そしてそんな居場所をくれたμ'sが大好きと、SIDで嬉しそうに書き記しています。しかし、これも真姫さんらしさだと思うのですが、OVAでも結局、μ'sのメンバーの前で「みんなが好き」という気持ちを直接口にして伝えることはできていません。SIDで日記という形でみんなに読んでもらい、普段は言えないことを文字で伝えるところも素晴らしいのですが、やはり自分の口から「大好き」という気持ちを伝えることには素直になれない。まだそこには至っていないんですよね。最後まで自分の中に閉じ込めたまま、素直になりきれないところは変わらないのかもしれません。ですが、子供の頃に閉じ込めた思いを解放して今の自分に気付かせる形で、たしかに私はμ'sが好きなんだと自覚させる過程を、たとえ幻想と夢の中だとしてもこうして見せてくれたことが、とても嬉しかったです。
LOVELESS WORLD』という真逆の題を含んだ曲によって、真姫さんの思いがより強度を増してくるという文脈が込められたものでした。

そんな光と闇、夢と現実という両面を抱えた楽曲とOVAを通して、大きな到達を迎えた真姫さんは、今ここから未来へどのように向き合っていくのでしょうか?
それは、同じくこのシングルに収録されたドラマパートを紹介して終わろうと思います。

現実で見る夢の中

露天風呂に入る穂乃果ちゃんと絵里さんと真姫さん。
夜空の星を眺めて、流れ星を探して願い事をしようとはしゃぐ穂乃果ちゃん。
「何をお願いするのよ?」
と聞く真姫さんに答える穂乃果ちゃん。
「μ'sのアイドル活動の成功と、穂乃果たちの友情がずーっと続きますように。みんなとずーっと一緒にいられたらいいなぁって」
穂乃果ちゃんらしい朗らかな調子の願いに、真姫さんが異なる考えを言います。

「けど、そんなこと流れ星にお願いしても意味なくない? それってお願いするっていうか、自分たちがそう努力すればいいだけの話だし」

現実主義的で、親の期待に応えるためにしてきたピアノや勉学への努力だけではなく、今は乗れなかった自転車に乗れるように陰で努力している姿からも真姫さんらしさを感じます。
斜に構え、素直になれず、器用そうに見えて実は不器用なところもあります。
そんな真姫さんがμ'sに感化されて、これからは名前で呼び合い、誇らしくいい友達だと思えるようになったμ'sのために努力を重ねていける。
ずっと一緒にいられたらいいなという永遠のような終わらない願いを、自分の努力によって繋ぎとめていくという意思を感じました。
子供の頃に願い夢見た大好きな音楽が続くNever ending stageは、μ'sで歌い踊る限り終わらないパーティーに他なりませんし、それを現実で叶えたμ'sで、真姫さんがアイドルをしている今の場所は、きっと現実で見る夢なのでしょう。


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余談ですが、西木野真姫さんというキャラが本当に好きだなと思います。好きすぎて辛いです。それを話すと長くなるのでやめます。
では、ここまで読んでくださってありがとうございます。

*1:『School idol diary 西木野真姫』 本文より

*2:『School idol diary 西木野真姫』 本文より真姫さんの父の台詞